2022年10月、第72期のスタートとともに技師長制度が導入されました。技師長はパシフィックコンサルタンツの技術分野を牽引し、パシフィックコンサルタンツ全体の技術戦略の策定や⾼度な専⾨技術を活かした受注促進と事業創⽣、品質・技術を重視する組織風土の醸成などを担っています。平川 了治、佐々木 健二、市川 博一の3人の技師長に、これまでの取り組みと今後の展望を聞きました。
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信頼の礎は品質、品質の礎は技術力
――技師長の役割は何か、またそれぞれどのような業務を担われているか教えてください。
平川:当社における技術には、大きく分けて品質技術、技術戦略、事業創生、技術外交という4つの要素があると考えています。この4つをそれぞれ底上げし、同時にグッドサイクルとして連動して機能させることを通して、技術の会社としての当社の企業価値を高めていくことが私たちのミッションです。
| 品質技術 | 予防保全型対策の強化、品質技術DX |
| 技術戦略 | 技術戦略マネジメント、会社の開発機能整備、技術戦略体制の強化 |
| 事業創生 | 重点テーマ戦略 |
| 技術外交 | ブランド形成活動、技術広報、学協会等関係強化 |
――具体的にどんなことをされているのでしょうか。
佐々木:技術品質の確保と技術力向上は、これがなければそもそも会社が成り立たないという原点です。コンサルタントにとっては信頼の獲得が根幹であり、信頼の礎は品質、品質の礎は技術力です。パシフィックコンサルタンツは建設コンサンルタント会社としての生い立ちが、同業他社とは大きく異なります。1951年の米国法人としての設立当初からコンサルティングエンジニア集団として、国民のためのプロジェクトを自ら提案することを使命としてきました。その中心にあったのが技術であり、技術力こそ当社の企業価値の源泉です。
技術戦略や事業創生は、いわば"攻め"の取り組みですが、私が担当するのは"守り"の取り組みであり、ここを揺るぎないものにすることが攻めを支えることだと思っています。当然のことですが、まずミスをなくさなければいけません。
第72期に技師長になったときから「ミスのない成果品を納めることに誇りを持ち、自律的に品質管理が実践できる組織にすること」を目標に取り組んできました。例えば「ミス事例研修」です。単にどういうミスがなぜ発生したかということだけでなく、このミスによってどういうことが起きたか、会社内外にどういう影響をもたらしたのか、ということも含めて説明し、品質管理の重要性を改めて周知してきました。
また、品質技術DXの取り組みとして、全社横断で取り組んでいる自動設計や省力化ツールの開発支援、作業効率化のための様式等事例集や工程管理ツール・省力化ツールの公開をはじめ、社内にあるノウハウを検索・参照できるようにする取り組みなどを行っています。加えて、当社の多様な技術分野に受け継がれてきている技術力・仕事力・人間力を次世代へ確実に継承していくためのマイスター制度も第72期から始め、毎期拡大しながら運用しています。
「俯瞰」「つなぐ」「やってみる」
――平川さんは技術戦略を担当されていますね。
平川:はい、私は全社の技術開発を主導する立場です。技術開発については年々、予算も件数も増えていて、今期である第75期では50件を超える案件に4億6000万円の予算を計上しています。これらがきちんと出口までいけるように導いていくことが任務であり、また技師長として技術者を引っ張っていく役割もあるので、その点では3つのことをモットーにしています。「俯瞰」「つなぐ」「やってみる」です。
まず、技術を「俯瞰」することです。時間軸・空間軸がすぐ思い浮かぶと思いますが、技術開発では対比軸で見ることも必要です。例えば自社と他社、建コンと異業種、先端技術と従来技術などです。社会課題が複雑化するなかでは、自社技術だけ、あるいは建設コンサンルタントの技術だけでは解決できません。AIを含めて先端技術は日進月歩ですが、しかしこれも万能ではありません。従来技術も有効です。対比構造をきちんと理解したうえで技術を俯瞰して常にアップデートしながら、押さえるべき技術を助言しています。
「つなぐ」というのは、技術や人をつなぐという意味です。技術を社会実装するのがパシフィックコンサルタンツの役割ですから、そのためには多種多様な技術をつなぎ、あるいはさまざまなステークホルダーをつなぐことが必要です。そのマインドを持ってほしいので、実際に人や技術を紹介するということも行っています。
「やってみる」というのは、社会実装するには現場でやってみることが何よりも大切だということです。技術として優れていることと、実際に使えることは別です。いち早く実証試験の機会を持つべきことや、スモールスタートで開発を進めながら改良・開発していくアジャイル型の取り組みを推奨し、フィールド探しを支援しています。
――市川さんはどんなことを担当されているのですか?
市川:私は主に事業創生を担当しています。以前よりITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)や自動運転に関する業務を担ってきたこともあり、現在も、モビリティやDXを中心に国の研究開発を推進する事業に関わっています。
具体的には、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)という取り組みがあります。日本の社会課題の解決や日本経済・産業競争力にとって重要なものと設定した課題について、基礎研究から社会実装まで一気通貫で研究開発を推進するというもので、技術開発だけでなく事業、制度、社会的受容性、人材など、総合的な観点で社会実装を進めることを特徴としたプログラムです。2014年に始まり現在は第3期目の取り組みとして14課題が設定され、課題の一つに「スマートモビリティプラットフォームの構築」があり、私はそのマネジメントをサポートする仕事をしています。人口減少や高齢化、労働力不足が進むなかで、地方に限らず都市部においても交通空白の問題は深刻化しています。一方で、小学生などが被害に遭う悲惨な交通事故は相変わらず繰り返されており、人々が安心して豊かに、そして持続的に生活していくために、モビリティをどうリ・デザインしていくか、それを支えるプラットフォームをどう構築していくかがテーマとなっています。
サステナ∞レジリエンス社会を技術者として切り拓く
――今、技術開発や技術者が直面している課題についてどう考えますか。
平川:今は人口減少と災害の激甚化が同時に押し寄せてきている状況で、社会課題は、より複雑化しています。そういった状況下で、社会インフラサービス企業である当社が目指すべき未来は「サステナ∞レジリエンス社会」だと考えています。サステナビリティというのは、一般的には持続性や効率化といった平時のものであり、一方、レジリエンスは災害時に対応するものと考えられています。しかし、これは今、平時・災害時に関わりなく同時に必要とされていて、つなげていかなければいけない。その一つのアプローチがフェーズフリーです。これまで培ってきた当社の社会インフラ技術に先端技術を積極的に取り入れ、持続可能で災害に強いサステナ∞レジリエンス社会の実現に果敢に挑戦したい。具体的にいうと重点テーマは2つあります(下図参照)。さらにその2つの下に、サブテーマ群を位置づけ、既存の取り組みもこれから取り組む新規のものも、もちろん社内・社外を含めてすべて体系づけてオールパシフィックコンサルタンツで包括的に進めようとしているところです。なお、分散型インフラマネジメントは株式会社日建設計と共同提案した概念になりますが、こういった共創パートナーとの連携も強化していきます。

――ほかにはどんな課題を感じていますか。
佐々木:ミスに関連しますが、詳細設計成果がそのまま工事に使えない現場不一致事案が多く指摘されています。その解決のために、発注者との合同現地踏査を複数回実施することや、今までは設計が終わってから積算し工事に進んでいたものを、設計と同時進行で積算作業を行い、この段階で施工性での問題が無いか確認を行う、といった現場不一致回避策を考えていかなければなりません。さらに、当社ではPM/CMの強化を図っているので、私たちがもう一歩踏み込んでサポートする仕組みをつくる、ということも検討して行きたいと思っています。
市川:当社にはこれまでの業務で蓄積してきた知見や技術が膨大にありますが、それらの活用が必ずしもうまくいっていないと思っています。今後、担い手が減少していくことを踏まえると、社内にあるノウハウを検索・参照できるようにする取り組みの話が佐々木さんからありましたが、これらの知識を組織として有効に活用する仕組みの強化は喫緊の課題だと思います。AIの活用も含めた高度化が期待されます。
また、デジタルツインに代表されるように、フィジカル(現実)世界をさまざまなセンサー等から集められた膨大な情報からサイバー空間上に再現し、データに基づいて意思決定を行う流れが加速しています。こうした中で、人間に代わってAIが解析処理をして、その結果をロボットなどを通じて実世界の制御につなげていくなど、社会のあり方も大きく変化しつつあります。これからは、膨大なデータを前提とした社会の中で、データと現場を結びつけ、実際のサービスとして社会実装までつなげられる技術者が求められていくと思います。これからの世代には、ぜひそういう技術者になってほしいですね。
――時代とともに求められる技術者のあり方も変わってきますね。
平川:私は2つのことを大切にしてほしいと思っています。一つは物事を実際に前に進める力を養ってほしいということです。知識や技術を適材適所に、タイムリーに使いこなし、人の力を集めて課題を解決すること。これは技術単体ではできないし、AIでもできない。社会実装に至るラストワンマイルをやりきるのは、技術者の人間力だと思います。ぜひそれをやりきれる技術者になってほしいです。
もう一つは総合エンジニアリング力です。大きな全体構想を立てて要素技術を体系的に結合させて社会課題を解決する。先ほど話したように今は個社や単一の技術による断片的な取り組みでは社会課題は解決できません。総合エンジニアリング力をもった当社の技術者が多様な連携をリードして社会実装までやり遂げてほしいと思います。
佐々木:私は新入社員研修で、まず「業務に真摯に誠実に取り組む」「自分で考えることを大事にする」「向上心・探究心を持って、業務課題を解決していくような形で仕事をする」、これに加えて、時々刻々と変わる状況をつかむ能力を持つこと、技術力の源泉である論理的思考能力、コミュニケーション能力、基礎的技術の習得が重要だと話しています。しかし、技術者として最も大切なのは、モチベーション、気持ちです。自分の成果に誇りを持つ。そのために内容の確認は自らするんだ、という意識を強く持ってほしい。自律的な品質管理活動ができるようになり、ミスがなくなり、さらに品質が高まるという好循環をつくりあげ、技術力向上と品質確保を同時に実現したいと思います。
技師長として描く未来
――技師長としてこれから何を目指しますか。
佐々木:今、詳細設計をしている人は、仕事のやりがいや達成感ということより、ミスをしたらどうしよう、という気持ちに過度にとらわれているような気がします。もっと「私がこれを設計したんだ」という誇りを持って仕事ができるような環境をつくりたい。世の中はどんどんソフト化していますが、詳細設計抜きにはなにも生まれません。これに携わる人々が誇りを持ち、達成感を得ながら働くことができるような会社にしたいと思っています。
市川:SIPに象徴されるように、これからの事業は一社単独で完結するものではなく、複数の企業や組織が得意な分野を持ち寄ることで成立するものへと変わっていきます。平川さんから「つなぐ」というキーワードが出ましたが、私もその大切さを感じています。社内の各分野の技術を横断的につなぐこと、さらに社外のパートナーともつながることで、社会実装につながる新たな価値が生まれるようになるし、当社の業態も拡げていくことができます。当社の強みである総合エンジニアリング力を基盤に、さらに内外に大きく自由につながりながらアメーバのように柔軟に形を変えながら進化していければいいと考えています。その中で、私は異なる技術や主体を結びつけ、事業として成立させていく役割を担っていきたいと考えています。
平川:前述のサステナ∞レジリエンス社会の実現にむけ、当社がその先頭にたっている姿を思い描いています。技師長として、このビッグピクチャーの下、当社の技術を進化させ、ブランド力を高める取り組みを牽引していきたい。また、当社は幅広い分野の技術士が多く在籍し、多様なプロジェクトを進めています。お互いに学んだり刺激しあいながら力を磨いていける環境があります。さらにその場を会社内外に広げ充実させて、一人ひとりの成長を応援していきたいです。2026年11月には防災庁が発足予定ですし、2027年秋にはアジア太平洋地域の約60カ国から防災担当閣僚が一堂に会して「アジア太平洋防災閣僚級会議(APMCDRR)」が仙台で開かれます。サステナ∞レジリエンス社会の実現に向け、パシフィックコンサルタンツがどういう役割を担っていくのか、優れた技術と技術者の存在とともに世界に向けて発信していきます。
