パシフィックコンサルタンツが先端技術センターのもとに置く技術研究所(つくば技術研究センタ-)は、広大な敷地に最新の研究・実験機能を備え、グループ会社のPCERとともに水理模型実験や環境調査・分析に取り組んでいます。パシフィックコンサルタンツグループならではの総合力に支えられた研究から社会実装までの一体的な取り組みを、パシフィックコンサルタンツ つくば技術研究センター長 市山 誠、国土基盤事業本部 流域構造部・水理実験室 室長 片山 直哉、PCER 代表取締役社長 小菅 敏裕の3人に語ってもらいました。
INDEX
つくば技術研究センターは1984年、PCERは1990年にスタート
――まずそれぞれの組織の概要を教えてください。
市山:つくば技術研究センターの前身は1979年に群馬県前橋市郊外の約1ヘクタールの敷地に開設した水理実験場です。5年後の1984年に、より広い土地を求めて現在地に約2ヘクタールを確保し「筑波実験場」として開設、1987年10月には実験規模の大型化に対応するため敷地面積を約4ヘクタールに拡張しました。その後、2001年には、大気、水質、底質、土壌、悪臭、農薬に関わる環境分析室を開設し、名称も「つくば技術研究センター」に改めて現在に至ります。


――途中から合流したのがPCERですね。
小菅:現在のPCERは、1990年にパシフィックコンサルタンツグループの支援会社として設立された株式会社PCEと株式会社パシコン筑波リサーチを前身としています。パシコン筑波リサーチは、パシフィックコンサルタンツの模型製作および水理模型実験の実施を担う専門会社として設立され、つくば技術研究センターを拠点に事業を展開してきました。一方、PCEは、環境分野における専門的な調査・分析業務を担う会社として設立され、大気、騒音・振動などの生活環境調査や、動植物・生態系に関する自然環境調査、水質分析を担ってきました。その後、2014年に両社が合併し、現在のPCERが誕生しました。現在も、水理模型実験による現象の再現・解析から、生活環境・自然環境に関する調査・分析、さらには必要な対策の提案までを一貫して行っています。国内でも数少ない大規模な水理模型実験施設と、環境分野における専門的な調査・分析技術を併せ持ち、パシフィックコンサルタンツグループの先進技術と連携した実験・研究、コンサルティングを実施できることがPCERの大きな強みです。
片山:水理模型実験は、河川・ダム・砂防・下水道・港湾など幅広い分野を対象に行っています。例えば首都高速道路の日本橋区間地下化事業やリニア中央新幹線に関連したものも継続して行っているので、業務を身近に感じていただけるかもしれません。日本橋の地下化は都心の真ん中で進めるプロジェクトですから、周囲に工事用ヤードなどをつくる余地がありません。そのため河道内に設けることになります。その場合、どのくらい水位が上がるか、大きく上がらないようにするためにはどうすればいいか、という検討を模型実験で行っています。またリニア新幹線の天竜川橋梁の計画に関しても、治水上の安全性を確認するため模型実験を重ねました。
小菅:2025年1月に発生した八潮市の大規模な道路陥没事故では、救助活動を円滑に進めるため、下水の一部を消毒した上で河川へ緊急放流し水位を下げるという取り組みがありましたが、PCERでは影響を見極めるための水質検査に毎日取り組み、これについては国土交通省と埼玉県から感謝状が寄せられています。
市山:水理模型実験やさまざまな環境の分析以外にも広い敷地を活かして、ドローンを使ったライダー(LiDAR)計測の実証や自動走行の実験など、さまざまな技術開発にも取り組んでいます。
連携が大きな価値提供につながっている
――パシフィックコンサルタンツとPCERは具体的にどのように連携しているのでしょうか。
片山:私の専門である水理実験でいえば、私たちパシフィックコンサルタンツが実験業務を受注し、PCERの水理実験課に再委託して模型設計や製作補助作業、実験・計測補助作業などをやってもらうというのが一般的です。パシフィックコンサルタンツ側は実験計画をつくったり実験結果を評価したりしますが、実験の実施に当たってはPCERの協力が欠かせません。同じ建物内にいるので、日々顔を合わせて打ち合わせをしながら進めています。PCERがいなければ実験はできませんし、私たちがいなければ実験業務が受注できません。まさに一体です。実験の実施に当たっても、実験には多くの人手が要りますから、模型の製作から実験準備、計測作業まで、いろいろな場面でPCERのメンバーにサポートしてもらっています。
――AIを使った解析や3次元のシミュレーションなど、IT技術も進歩していますが、水理模型実験ならではの価値も大きいのですね。
片山:机上の数値解析等で答を出しているコンサルタントも多いなかで、私たちは水理実験も活用しながら検討を行います。確かに数値解析技術は大きく進歩していますが、水理模型実験で現象を再現し、直接、目で見るということには非常に大きな意味があります。計算結果がきれいに出たり、シミュレーションがそれらしくできたとしても、それが本当に合っているのか、その判断は簡単ではありません。しかし、模型で忠実に地形を再現すれば、実際に起きる現象が目の前で再現できます。複雑な説明も不要で意思決定も早くなります。もちろん、そのためには模型や実験装置の精度が重要ですが、その点PCERの模型製作に関する技術は非常に高く、安心です。
小菅:現地の測量結果を踏まえて、例えば川であればモルタルで成型していくのですが、河道は砂や土が堆積していて抵抗があったり、法面や河川敷には木や草が生えていたりします。これも材料を工夫して、物理的に同じ抵抗が生まれるように再現して模型としての精度を上げています。また、実際に現地で観察された痕跡水位をもとに、出来上がった模型が、同じ条件で同じ水位を再現できるかという確認もします。また、動植物の調査については哺乳類や鳥類、昆虫類、魚類、植物をはじめ、クモ類の専門家までいるんです。

撮影:株式会社PCER 鈴村颯汰

撮影:株式会社PCER 鈴村颯汰
騒音や水質などの生活環境の分析を行う専門家もいます。1つの会社のなかに多様な専門家がいるだけでなく、分野間を横断して俯瞰的にみることができる点も特長です。さらにPCERは決して規模の大きな会社ではないので、意思決定の速さや、試行的にいろいろなことができるという特長があり、これもパシフィックコンサルタンツとの良い連携につながっていると思います。


地域の発展に貢献したい
――地域貢献事業も積極的に進めていますね。
市山:男子プロバスケットボール(Bリーグ)の茨城ロボッツのスポンサーになり、例えば地域の特別支援学校の試合観戦のサポートなどを行っています。単なる金銭的な支援ではなくて、地域のコミュニティを育て、地域を盛り上げるためにロボッツと一緒に何ができるか、ということを考えています。また、年に1度「つくば祭」という施設公開行事を開催しています。社員や家族、地域の住民や子どもが集い、施設見学ツアーや技術の展示、レクリエーションを楽しんでもらっています。地元では子どもの数が大きく減っていますが、観察したり学んだりすることの楽しさや地元で働くことの価値や面白さをぜひ伝えていきたいと考えています。2022年から、山形県内の市立高校がつくば技術研究センターのホームページをみて興味を持ってくれ、それをきっかけにその高校が、1年生のキャリア教育として実施している研修旅行の訪問先のひとつがつくば技術研究センターになるということがありました。毎年継続していますが、センター内を見学してもらうだけでなく、働くことの意義などについて、私たちからも積極的に発信しています。私たち自身は気付いていなかったのですが、地元の方からは、パシフィックコンサルタンツのような企業があることが心強い、建物に灯りがついているだけでも安心感があるというお話を聞くこともあります。こうした地域からの期待や信頼に今まで以上に応えていきたいと思っています。
最先端の研究所として世界に新たな技術を発信していく
――つくば技術研究センターとPCER、それぞれのこれからの展望を聞かせてください。
片山:現象そのものが直接見えるということの価値は非常に大きなものがあり、AIの時代になっても水理模型実験の重要性は変わりません。実際、受注件数も増加を続けています。AIのほうがスマートで実験は泥臭いと感じるかもしれませんが、一度経験したら水理模型実験の面白さがわかります。自分が現象を直接見ながら試行錯誤した水理模型実験は20年前のものであっても克明に覚えているものです。この面白さを含めて研究所で蓄積してきたものを若い世代に伝えていきたいと思っています。
小菅:私はパシフィックコンサルタンツとPCERの2つの立場がありますが、大きな企業で仕事をするときに大切になるのは横串が通せるかどうかです。実験装置をつくる、調査をしっかりやるという技術は非常に高いわけですが、それを狭い専門領域にとどめるのではなく、横串を刺しながら視座を上げていくことが大事だと思っています。そこに技術者としての成長もあります。また、つくば技術研究センター内にはビオトープがあります。世界的に生物多様性の大切さがいわれ、国もそういうことに横断的に取り組もうとしている。ビオトープをアップデートし、つくばのなかの小さな緑地が、世界の生き物の保全に貢献できるということをアピールしていきたいと思っています。
市山:つくば技術研究センターは現在、個別の実験や分析だけでなく、東京都が実施するTokyo Cross Lab(大企業等の保有資産を活用したオープンイノベーション促進事業)として、スタートアップ企業4社と契約を結び、研究設備や技術アセットを提供することで、先端技術を基盤とした新事業開発を支援しています。しかし研究所のミッションはそうしたことにとどまりません。器としての研究センターの存在価値は大きなものがあり、優秀な技術者を育てる場所でもあると思っています。実際、土木研究所内に設立された、ユネスコ後援の国際研究拠点「水災害・リスクマネジメント国際センター ICHARM(アイチャーム)」は、つくば技術研究センターで毎年研修授業を行っています。これも研究所としてのポテンシャルが認められているからだと思います。さらに器として充実させながらすぐれた研究者・技術者を育て、40年後、50年後も、この研究所から世界に新しい技術を届けたいと思っています。
――楽しみです。今日はありがとうございました。
